白銀の景色に、シルエット。
 玄関に出ると、おじぃはぼーっと立ち尽くしていた。

 俺はほっとしておじぃに近寄る。


「おじぃ」


 静かに声をかけると、おじぃはそっと顔を上げた。力なく俺を見つめる。


「なあ、おじぃ。何が言いたかったば?」


 尋ねてみるが、答えない。しかし、おじぃは目線を家の中へ向けた。その目線を辿れば、車椅子に座ったおばぁの姿。


「……おばぁが、心配だったわけ?」


 おじぃは微かに頷いたように見えた。俺は何故だか胸が温かくなるのを感じる。

 そうであって欲しいと、密かに思っていたのだろうか。


「おじぃ。ちょっと聞いて。俺さ、あんまおじぃと話した事ないさ? 思い出とかも、あんま無いわけよ」


 おじぃは静かに俺に目線を移す。


「あんま笑わんしさ。よく分からんかった」


 友達のおじぃはみんな明るくて口が達者であるのに、自分のおじぃだけが違う。それがずっと不思議だった。


「でもさ、運動会とか行事には来てくれたさ? ほんとは嬉しかった」


 小学校の運動会や学芸会、おじぃと叔母さんが二人でいつも見に来てくれた。

 本当は少し嬉しかった。そう思う俺は、ガキなんだろうか。


「ありがとう。あんま話もしなかったけど、おじぃは俺のおじぃだった。家族だった。子どもの頃、遊びに連れてってくれてありがとな」


 普段なら照れ臭くて言えそうにない言葉が、ポロポロと零れた。

 おじぃは相変わらず何も言わない。俺が言い終わってちゃんと顔を見ると、おじぃは微かに笑っていた。

 遺影のように、本当に微かに。


 それだけで俺はもう充分だった。


 少しずつ少しずつ、おじぃは消えてゆく。風に染まるように、という表現が似合っている。


「安心してさ。おばぁは大丈夫よ」


 笑って言うと、おじぃはどこか安心したような顔をして消えた。


 ふと夜空を見上げれば、燦然と輝く星々。丸い月が、遠くに小さく見える。


 ──今年の旧盆は、一生忘れられない旧盆になった。





*End*
≫あとがき!
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