白銀の景色に、シルエット。
吹く風と僕。
ふわりふわりと戯れる風は、何故だか僕を安心させた。
嬉しい時も悲しい時も、風は僕の傍を吹き回っていた。
【吹く風と僕。】
昔から僕は風に好かれているようだった。
風があまりない真夏でも、僕がいる所は風が吹いた。
嬉しい時は涼風、寂しい時は柔風、悪戯した時は強風。それはまるで子を叱る母のようだった。
僕にはママがいない。元々病弱で僕を産んだ時に死んだと聞いた。
僕のせいで死んだんだと自分を責めた事もある。でも、パパがママもしてくれるし、怒ってないと言ってくれたから。
僕はパパと幸せな毎日を送っている。
今日だって、朝から笑って一日を始めた。パパがパンを焦がしたんだ。
もう十年も家事をやってるのに、まだたまにこんな失敗をする。そこら辺は多分、パパの持って生まれた一つの才能。
いくら失敗したってへこたれない。それを笑い話にだって変える。
僕にとっては逞しいお父さん。
夏なのに涼しい風が吹く。
「涼しー!」
日射しは照りつけるように暑いのに、風だけは優しく冷たい。
僕が風に好かれてるって話をパパにした時、パパは珍しく優しい顔で笑った。
「ママはね、風が大好きだったんだ。風に吹かれてるのがほんとに好きで、パパと初めて海で出逢った時もな、海を見に来たんじゃなくて風を浴びに来たって言ったんだ」
そう、パパは話してくれた。ママは相当風好きだったらしい。
その話を聞いてからというもの、俺は纏わりつく風に「ママ」と呼びかけるようになった。
それが本当にママなのかは分からない。何の証拠もないけれど、僕はそう呼び続けている。
「ママ、9月には遠足があるんだ。博物館に行くんだってー」
ふわぁっ。
そうしてまた今日も、「ママ」が俺を優しくなぜる。
*End*