白銀の景色に、シルエット。
 好きだから疑わないでと、そんな気持ちなんだろうけと、俺には通用しない。


 一つ、俺から忠告する。最近出来た君の癖。

 今流行りのケータイ依存症ではなかったのに、知らず知らずの内に視線は常に携帯電話に注がれている。まるで、誰かからの連絡を待つように。

 いや、実際待っている。俺の知らない誰かからの連絡を。















「今日はねー、オムライスだよー」


 俺達の家を目前にしながら彼女は笑う。


 入居してまだ間もない寂れたアパート。

 お互い、地元を離れて上京して来た身である為、出来るだけ支出を抑えようと考えて同棲を決めた。

 もちろん、互いの親から了解を得ている。交際を始めた時から家族ぐるみの付き合いだったから了解を得るのは容易かった。


 鍵を開け、家に入る。こまめに掃除してくれる彼女のお陰で、室内は綺麗に片づいている。


 彼女が料理に励んでいる間に、俺は風呂に入る。上がる頃にはほかほかのご飯が並んでいる。


 食事中は一生懸命話す彼女の話に耳を傾け、適当に頷いてやる。


 食事が終われば、俺が片づけをし、その間に彼女が風呂に入る。俺が片づけを終える頃に彼女は上がる。


 そんな生活を繰り返し、今では習慣になっている。


 布団に入るのはいつも俺の方が先だ。

 彼女は常にレポートなどに追われている。学部が違うからか、俺の方はそんなにレポート提出がない。

 特にやる事もなく布団に潜り込んだ。一人レポートと睨めっこする彼女には悪いと思いながらも、一足先に眠りに就いた。















 ふと、目が覚めた。何か聞こえる。


「……っく。うぅ……」


 紛れもない、彼女の声だった。

 俺を起こさないように気遣っているのだろう。声を押し殺しているようだった。


 また、泣いている。俺の知らない誰かを想って。


 こんな風に彼女が泣く夜は初めてじゃない。最近、毎夜毎夜こうだ。

 布団の中で一人泣いている。泣いている方がスッキリするだろうから、あえて声はかけない。
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