白銀の景色に、シルエット。
羽根の折れた小鳥
鍵の開く音がした。
体育座りで埋めていた顔を上げる。
「樹(イツキ)、おかえりなさい」
玄関で靴を脱いだ樹を出迎え、抱きついた。
「ただいま、花笑(カエ)」
樹は抱きついた私の頭を優しく撫でる。
樹に抱きついたり、頭を撫でてもらったりするのが、とても安心する。
私にとって、樹に触れていられる時間が何より大切。
「今日は何をしてたんだ?」
ソファーに座り、鞄からノートや分厚い参考書を取り出す。
「掃除とかして、ずっと眠ってた」
「え、ずっと?」
「ん。夢、見た」
「夢…。珍しいね、花笑が夢を見るなんて。どんな夢?」
「あの日の夢」
「! 花笑、忘れろ! あの日の事はもう忘れるんだ!」
肩を掴まれる。力が入ってて痛い。
痛みを訴えようとして、顔を上げると、真剣な樹の顔があった。
それから、いつも私が樹にするように樹が私を抱き締めた。まるで、小さな子供を落ち着かせるかのように。
「もう傷つかなくていいんだ」
──ねぇ、樹。聞いて。
「私、もう大丈夫。樹がいてくれたから」
五年前、あまりにも衝撃的な出来事が重なって、私は壊れてしまった。
泣きたくても、涙は出なかった。笑いたくても、口元は緩まなかった。
あの日、私はまだ10歳だった。
円満な家庭で育ち、何一つ問題もなく平穏に暮らしていた。でもそれは、あっと言う間に壊れてしまった。
母が、病気で死んだ。
元々体が弱かったので、仕方のない事だと父は言った。しかしその数日後、父は母の後を追うように首を吊って自殺した。
両親が死んだ事で大きな傷を負ったのに、更に私は傷を負う事になった。
両家の祖父母に罵倒される毎日の始まり。
母が死んだ原因は、私を産んだせいだ。父が死んだ原因は、私を産んだせいで母が死んだからだ。
10歳の私はどうする事も出来ずに、ただ素直に傷を負うしかなかった。
そんな私に唯一手を差し延べてくれたのが、幼なじみの樹。