白銀の景色に、シルエット。
「男女間に友情は成立しないと言います」

「価値観の違い。他は他、こっちはこっち」

「では速水さん、他に好きな人がいるんですね」

「…………」


 言葉に詰まってしまった。

 答えはイエスかノーの二択で、答える事は簡単だ。しかし、どう答えたら良いのか分からなかった。


「速水さん?」

「黙秘」

「……ここ、使うところですか」

「ダメか」

「──私に好きな人はいたんでしょうか」

「さあな」


 いたと答える事も出来る。それが俺だと教える事も出来る。

 しかし、俺には分からない。お前が本当に俺を愛していたのか。


 そりゃあ、多少好きだったからこそ三年も続いていたとは思うが、俺の事をどう思っていたのかは今となっては闇の中。


「私は、速水さんの事が好きだったと思います」

「……え?」


「毎日来て下さる優しい方ですから」

「俺は優しくなんかない」

「いいえ、優しい方です」

「……どうした。今日はやけによく喋るな」

「……今日は少し気分が良いんです」

「そうか」


 今ではすっかり肩につくほどに伸びた彼女の髪に触れた。

 胸の奥が痛むのを無視して、無理に笑顔を作る。彼女に要らない心配をかける訳にはいかない。


 ぽんぽんと頭を撫で、ベッドから立ち上がる。


「お前の好きなオレンジゼリー買って来たからさ、下に下りて食おうぜ」

「……はい」


 あまり分からないほど微かに笑って彼女はベッドから出た。


「先に下行っとくから、早く着替えて下りて来いよ」

「はい」


 彼女が頷くのを確認してから、俺は彼女の部屋を後にした。


 今しがた閉めたドアに背を預け、溜め息を吐く。


(日向<ヒナタ>……)


 言いようのない苦しみが込み上げて来るのを、俺はひたすら耐えるしかなかった。





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