白銀の景色に、シルエット。
狩る者ー小さなヒカリー
―──ふわっ。
地上に舞い降りた。
久々の地上の空気。見慣れない建物が立ち並ぶ。
(少し来ない内に、大分空気が悪くなったな)
長い間、眠っていた。
目の前の、変わり果てた景色がそれを強く物語っていた。
一人、街中を歩く。
真っ黒な衣装に大きな鎌というおかしな格好をしているにも関わらず、誰一人として私の存在に目を止めない。見えていないのだ。
──そう、私は“死神”。
私が死神になったのは、今から十年前。
気づけば私は暗闇の中にいて、傍にいた女性が言った。
“今日から貴女は死神ですよ。”
数多くの死人の中から選ばれたのだと。それから人の魂を狩っていたけれど、嫌になった。
そして、罪を犯した。
死ぬはずだった少女を助けるという禁忌に触れたのだ。小さくも輝きを放つ魂を狩る事は出来なかった。
その罰に、眠らされていた。
そのまま消えるものだと思っていた。それでもいいと思った。本望だと。
しかし、それは叶わなかった。傍にいた女性――恩師に起こされたのだ。
「貴女が眠りに就いてからもう十年です。私の事、覚えていますか?」
「もちろんです。死神界のいろはを教えて下さった恩師ですから」
「ふふ…。貴女にチャンスを与えます。復帰試験です」
「復帰…試験…?」
「ええ。合格すればもう一度、死神と称する事が許されます」
「不合格であれば消滅ですか」
「……。試験内容は、この男の魂を狩る事です」
「澤村啓介、27歳…」
「明日、地上へ降りなさい。朗報待っていますよ」
「…はい…」
はっきり言って、再び死神に戻るなど、嫌だった。もう“狩る者”は嫌だった。
しかし、嫌とは言えなかった。
仮にも相手は恩師。どうにかしてもぎ取ったのだろうそのチャンスに、応えない訳にはいかなかった…。