白銀の景色に、シルエット。
「君は優しすぎたね。多感で、傷つきやすくて」


 柔らかな、何故か懐かしい気がする声に震えが止まった。


 そして、冷静を取り戻す。


 大きく息を吸って、覚悟を決めて鎌を振り下ろした。


「守ってやれなくてごめんな。羽名(ハナ)……」


 ─────!!!


 気づいて動きを止めようとしたけれど、遅かった。

 私はもう、鎌を振り下ろしてしまっていた。狩ってしまった、後だった。


 羽名――それは、私の生前の名前。


「啓介…っ!!」


 思い出した。彼は私の全てだった人。毎日毎日、愛してやまなかった人。

 そして私はいじめられて自殺した。


「気づいていたの、啓介。始めから…あの瞬間から」


 頭を抱え、膝をついた。音を立てずに鎌が倒れる。


 狩ってしまった。この手で、この大きな鎌で、死ぬ前まで想い続けた人を!!


「あぁあ゙ぁぁ゙…!!」


 ガクガクと震える。

 眩い光を放つベールが、私の体を覆った。死神が自ら滅する時に起こる現象。


 ──そう。私は気づかない内に、滅する為の儀式を始めていた。


 何も考えたくない。いくら仕事とはいえ。何も知らなかったとはいえ。

 大切な人の魂を狩ってしまった。


 もう嫌だ。こんな想いしてまでも、続けたくない。

 もう出来ない。私には無理だ──!!




『なら尚更、俺は生きたいなんて言わない』

『君に、生きていて欲しいからかな』
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