白銀の景色に、シルエット。
落ち着いてから下へ下りると、彼女の両親がテーブルに着いて一枚のチラシを見ていた。
本当に仲の良い夫婦だと羨ましく思う。
俺の両親は不仲で、俺が高校卒業すると同時に離婚した。元々、子どもに無関心だった両親は俺とコミュニケーションを取ろうともせず仕事に明け暮れていた。
二人はそれぞれ出て行き、俺に残されたのはマンションの一部屋。
就職先が決まっていた事。そして、高校からの付き合いで心許せる友人であった彼女がいてくれた事が唯一の救い。
「速水君。日向はどうした?」
「今着替えています」
「そうか。ほら、座りなさい」
「済みません、失礼します」
彼女の父が隣を勧めてくれ、軽く頭を下げながら隣に腰かけた。
「何を見てたんですか?」
「明日の夜、町の花火大会があるのよ。それに行こうって話をしてたの」
彼女の母が楽しそうにチラシを指し示す。
「あぁ、もうそんな時期ですね」
梅雨が明けたかなと思う頃に、この町の花火大会は開催される。この町唯一の祭りだ。
「ねぇ、速水君。日向を誘って二人で行ったら? 私達は私達で行くから」
「え? いや、でも日向が何て言うか…。ここ一年、ろくに外出もしないじゃないですか」
「だからよ。たまには外に出て楽しんでもらいたいの」
「そうだな。私達は二人で行こう。若い者は若い者同士で」
「ふふ。そういえば、貴方達がまだ友達だった頃に一度行った事あったわね。友達でいた頃から、あの子は貴方の事が好きだったのよ、速水君」
「そうなのか? 私には一言も…」
「当たり前じゃないですか。貴方は父親、私は母親ですよ?」
「…………」
「ふふふ」
こんなにも優しい言い合いなど、聞いた事がない。
優しく温かな空間で育った彼女がほんの少し羨ましく思えた。が、すぐに思い直す。
この穏やかな空間で育ったからこそ、彼女はあんなにも優しく心の綺麗な女性になった。