白銀の景色に、シルエット。
桜貝の忘れもの





 12の夏。俺は子どもだった。バカな子どもだった。

 だから、間違いを起こした。


 たった一人の大切な女の子を、自らの手で消してしまった。 自分の勝手な気持ちで。死なせてしまった…。

 いくら謝ったって、いくら悔やんだって帰っては来ない。


 俺は、自分の浅はかさを知ったんだ。


 15になった今もまだ悔やみ続けてる。忘れられずにいる。

 瞼を閉じれば浮かんで来る。ティアのあの笑顔。優しげな声。もう二度と触れられない、白く透き通った肌。


 もう一度、会いたい。


 あぁ、また今年も夏が来る。ティアと出会い、別れた暑い夏が。


 ザザーンッ…。

 波の音。潮の匂い。三年前と変わらない。


 ──ティアは、人魚だった。

 中には笑う人もいるかもしれない。お伽噺だろう、と。

 でも、本当にいたんだ。ちゃんとそこに在ったんだ。


 ティアは、神様から命じられた海の監視役だった。

 そんなティアが肌身放さず持っていたものがあった。

 桜貝の首飾り。彼女はそれを片時も放さず持っていた。それは命のようなものだと教えてくれた。


 ある時、俺はティアに意地悪をしてみたくなった。

 ほら、よくあるだろ? 好きな子をいじめるっていうガキの典型的な心理。

 それで俺は、桜貝の首飾りに目をつけた。これを隠せば、ティアは困るだろうなって。


 それから隙をみて、首飾りを外した。


 でも、隠し場所を探している最中、手に持っていたはずの首飾りがなくなっていた。

 来た道を戻ったが見つからず、仕方なく謝ろうとティアを見上げた。

 するとティアの体は消えかけていて、彼女はありがとうと言って消えた。


 あの首飾りは本当に、彼女の命そのものだった。彼女から首飾りが離れると命が尽きる、そういう掟だったらしい。


 それが俺の、初めての罪。





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