白銀の景色に、シルエット。
ザザーン…。
やっぱここが一番楽だな。楽に息が出来る。
ティアとのつらい想い出がある場所ではあるけれど、楽しい想い出がある場所でもある。
俺は未だにティアへの想いを引きずっている。
忘れられない。他の誰かを好きになる事が出来ない。
俺って意外と一途だったんだなと改めて思う。けど、そろそろ前に踏み出さなくては。
ティアは俺が永遠にティアの事を引きずる事なんて望んではいない。いい加減、ちゃんと前に進んで行かないと。
例えば、好きな事に打ち込むとか。好きな奴を見つけるとか。
けど、なかなか良い相手って見つからないもんだよな。今時、ティアのような優しい女の子なんて…。
「草津君!」
「うわぁ?!」
な、何だ?!
「あはは。驚いた?」
何だよ。入江(イリエ)じゃないか。
小学校からずっと腐れ縁の女の子。今でも同じクラス。
入江 涙(ルイ)。小学生の頃はよく一緒に遊んだ。遊ばなくなったのは、ティアと出会ってからだった。
「何でここに」
「いちゃいけない?」
「んなこたぁないけど」
「私も好きなんだ。この海」
そう言って入江は海を見つめた。
「草津君。進路、決めた?」
「いーや、全然」
「小学校の時の高校野球……甲子園でN商業に凄く上手い選手がいるから、そこに行くって言ってなかったっけ?」
「げっ。覚えてたのか」
「バッチリ。野球選手になるって夢、もう諦めちゃったの?」
少し寂しげに、入江は言った。
「そういえば、そんな夢見てたな。けど無理だろ」
「そんな事ないよ。草津君、野球上手じゃない」
「もっと強い奴はいる」
「……変わったね、草津君。私の知ってる草津君は、もっと明るい未来を描いてた」
「無知だったからな」
「何でそう否定的なの?」
「さあ」
「……ねぇ、草津君。約束、覚えてる?」
「約束?」
「小学五年生の時。国語の時間に“夢”の作文を書かされた時の」
「あ……あぁ、あれか」