白銀の景色に、シルエット。
「芸術科のある高校に行かせてって頼んでるの。でも、まだ許してもらえなくて」

「へぇ」


 頑張るな、入江。

 そうか。夢か。

 現実をつきつけられて、一度捨てた夢。沸々と込み上げて来る、熱い想い。

 あぁ、そうか。そんな簡単な事だったのか。

 諦めないで努力する。ただ、それだけで良かったんだ。

 なりたいって強く思えば、懸命に努力すれば、不可能を可能に出来る。昔は信じてやまなかった事、いつの間にか忘れてた。


「サンキューな、入江」

「?」

「忘れてた事、思い出した」

「そっか。良かった」


 もう一度夢を見よう。そう思った。


 だんだん辺りも暗くなる。


 そろそろ帰ろう。腹減った。


「入江、帰ろ。送ってやるよ」

「いいよ、そんな」

「もう暗いしさ」

「本当にいいよ。なんか照れちゃう」

「そーか?」

「うん。……あ、じゃあ代わりにって言ったら変だけど、明日も来てくれないかな?」

「え?」

「私ね、来週転校するの」

「初耳」

「お父さん、石川県に転勤になっちゃって」

「そっか」

「うん。だからその前に聞いて欲しい話があるの」

「ああ、分かった。学校終わったらここに来るよ」

「ありがとう。じゃあ、また明日ね」


 満面の笑みを浮かべて、入江は走り去った。


 転校……か。入江ならどこに行っても馴染めるだろう。

 でも、何でだろーな。妙に寂しさを感じる。

 あれか。昔の馴染みだからかな。

 多分そうだ。結構よく遊んだし。だから寂しい気がすんのか。納得。

 にしても、話って何だろう。気になる。

 ……ま、明日なんて寝ればすぐに来るし。家帰って寝よう。















 学校が終わってすぐ、天野海へ直行した。が、やはり入江はいない。

 早く来すぎた。馬鹿じゃん、俺。


「草津君!!」


 入江が肩を大きく上下に揺らして、近寄って来た。
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