白銀の景色に、シルエット。
「草津君が見えたから……途中から走って来たんだけどっ、草津君歩くの速いよ!」


 息を荒くしながら、入江は言った。


「悪ィ。大丈夫か?」

「うん、何とか」

「で、話って?」

「あ、うん。とりあえず座らない?」

「そうだな」


 俺と入江は近くの岩場に座った。

 沈黙が流れる。


「い、入江?」


 少し戸惑う。

 こういう妙な空気が苦手な俺。


「草津君」


 やっと、入江は口を開いた。

 安心して、それから少しドキドキして、入江の言葉に耳を傾ける。が、さっきの入江の言葉には続きがなく途切れていた。

 不思議に思い、チラリと入江を見やる。


 ──いつもの笑顔はなかった。寂しげだった。目を潤ませて、涙が零れ落ちそうな顔。


 一体、どうしたんだ?


「黙って聞いてね」

「あ、ああ」


 入江が再び口を開いたので、慌てて返事をする。


「ティア、覚えてるよね?」

 えっ?


 入江の口から出た言葉は、想定外の言葉だった。

 ティア。俺の初恋の、人魚。

 何故、入江が知ってるんだ?


 俺が口にしようとすると、入江が念を押すように見た。


 ──私もね、ティアと友達だったの。


 草津君が毎日ティアに会いに来ていたように、私も毎日ここに来ていた。私の場合、絵を描きにだけど。

 草津君とティアがいつも逢っていたこの岩場、あそこから見えるのよ。


 ──そう言って振り返り、低い崖を指す。


 暑さ凌ぎにこの海に来て絵を描くようになって、ある日偶然見かけたの。

 草津君と、可愛らしい人魚の女の子を。

 楽しそうに話をしてた。ずっと羨ましくて。私はいつもここから二人を眺めていた。

 一枚だけ、二人を描いた絵があるの。でもあれは私の宝物だから見せられないな。下手だけど気に入ってるのよ。
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