白銀の景色に、シルエット。
 あの約束をした日から、私は草津君の事が好きだったんだよ。

 ティアの最期の頼み。私は忘れずに草津君をずっと見てた。

 まぁ、好きだから自然と目は草津君を追っていたけれど。

 でももう、ティアの最期の頼みは聞けない。ここを離れちゃうから。最後までちゃんと見るつもりだったんだけど、ね。

 出来なくなったから、私はティアの最期の頼みを話そうと思ったの。いつかはちゃんと知って欲しかったから。

 ティアがどんなに草津君を想っていたか。私が、どんな想いで草津君を見ていたか。ちゃんと。


 あはは、そんなに驚いた顔しないで。

 でも、本当に大好きだったの。草津君の事。

 ティアの事を忘れろなんて言わない。好きになって、なんて言わない。

 ただ、知って欲しかった。それだけなの。





「……すっかり話し込んじゃったね」


 入江はそう言って、自分の腕時計を見た。


「わっ! 嘘、もう6時?! 帰らなきゃ~!!」

「えっ。ちょっ、入江?」

「これでさよならだ、草津君。今までありがと。もう会えないかもしれないけれど、いつかまた会えるといいね! じゃあ」

「おいっ!!」


 こちらの言い分も聞かず、入江は走り去っていった。物凄い勢いだ。もう見えない。


 これでもう本当にさよならなのか、入江。俺の中では全てが始まったばかりなのに。


 なあ、涙……。















 数日後。

 担任の先生から、入江が転校した事を聞かされた。


 それでも俺は納得がいかなかった。これで終わりなんて。

 せっかくティアの事も踏ん切りがついたっていうのに、肝心の入江がいないなんて。


 だから、先生に訊いた。入江の新しい住所を。

 理由なんて決まってる。手紙を出す為だ。中三の俺に、石川へ行くお金がある訳がない。


 一応、恥ずかしいと思う。中三にもなって女子に手紙だなんてさ。でも、直接電話でとかいうよりは断然マシだ。


 ──さぁ、手紙を書こう。
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