白銀の景色に、シルエット。
蕎麦を食べに行きませんか?





「へ? 今から?」

『そう、今から』

「えー、いきなりすぎるだろ、お前」

『ダメもとで訊いてます。てか…もう菜子んちの前にいたりするんだけど』

「えっ? マジかよ、おい!」

『大マジ。無理? てか寒い』

「あーもう! 分かった、行くから!」

『よし。じゃ、待ってるから早く出て来いよ』

「ハイハイっ!」


 ベージュ色のセーターを着たショートヘアの少女は少々荒っぽく電話を切った。


(ったく!)


 思い切り部屋着の長ズボンからデニムパンツと替える。


「何なんだよ、アイツはー!」


 一人きりの家で堂々と文句垂れる少女──菜子は黒いコートを羽織った。お気に入りのコートだ。


「財布持った、鍵持った、ケータイ持った! ……こんぐらいか」


 持ち物全てをコートのポケットに突っ込み、玄関に向かう。

 玄関先の小さな鏡に映る短い髪。つい最近、肩まで伸びていて鬱陶しく、バッサリ切った。


(アイツはもったいないってゆーけど、この長さが自分には合ってる)


 アイツとは、中学時代からの付き合いである先程の電話相手での事ある。

 外に出ようとしたところで、菜子は忘れ物に気づく。慌てて家の奥に戻り、それを巻きつけて戻って来た。

 青色チェックのマフラーだ。
< 77 / 107 >

この作品をシェア

pagetop