白銀の景色に、シルエット。
蕎麦を食べに行きませんか?
「へ? 今から?」
『そう、今から』
「えー、いきなりすぎるだろ、お前」
『ダメもとで訊いてます。てか…もう菜子んちの前にいたりするんだけど』
「えっ? マジかよ、おい!」
『大マジ。無理? てか寒い』
「あーもう! 分かった、行くから!」
『よし。じゃ、待ってるから早く出て来いよ』
「ハイハイっ!」
ベージュ色のセーターを着たショートヘアの少女は少々荒っぽく電話を切った。
(ったく!)
思い切り部屋着の長ズボンからデニムパンツと替える。
「何なんだよ、アイツはー!」
一人きりの家で堂々と文句垂れる少女──菜子は黒いコートを羽織った。お気に入りのコートだ。
「財布持った、鍵持った、ケータイ持った! ……こんぐらいか」
持ち物全てをコートのポケットに突っ込み、玄関に向かう。
玄関先の小さな鏡に映る短い髪。つい最近、肩まで伸びていて鬱陶しく、バッサリ切った。
(アイツはもったいないってゆーけど、この長さが自分には合ってる)
アイツとは、中学時代からの付き合いである先程の電話相手での事ある。
外に出ようとしたところで、菜子は忘れ物に気づく。慌てて家の奥に戻り、それを巻きつけて戻って来た。
青色チェックのマフラーだ。