白銀の景色に、シルエット。
スマイル、スマイル。
少女は笑う事を忘れた。
笑うという行為が何なのか、何の為にあるのかを丸っきり忘れてしまった。
寒空の下、噴水広場のベンチに座る少女は無心に一メートル先を見つめている。
そんな少女を気味悪そうに見ては、見ていない振りをする人々。
少女はとても見すぼらしい格好をしていた。ボサボサの黒髪に汚れた体、虚ろな瞳。
何より皆の視線を受けているのは、十一、二歳と見受けられる体躯。
このご時世、中高年や老人のホームレスは多く見掛けるが、児童のホームレスは見掛けない。道行く人々は物珍しげに見つめては見知らぬ振りをして去って行く。
一ヶ月前、両親が首を吊って他界した後、頼れる親戚も手を差し延べてくれる者もおらずで少女は独りになった。
身寄りがない為、孤児院に入院する事になったが、少女はそこに入る事を拒んで逃げ出したのだ。
そうして今に至る。
ぐぅっと腹が鳴り、少女は気づいたように腹に手を当てた。
日に一度、コンビニの廃棄用の弁当を盗んで食べている。
罪悪感など感じず、もうすっかり慣れてしまった。
──ふと、空を見上げた。しかし曇って青い空は窺えない。
少女は亡き両親の顔を思い浮かべた。貧しいながらも、笑いの耐えない家族だった。それが何故消えてしまったのだろう。
両親に何があったのか、少女は分からない。たがらこそ、両親の死を素直に受け入れられずに逃げ出した。
空を見上げる事に疲れた少女は、足許に目を落とす。
映り込んだのは、足とタイルだけでなく、カーキ色の子犬二匹。子犬達は少女の足許で舌を出しながら少女を見上げている。
少女は前方に屈み、右手を出した。子犬達はくんくんと少女の手を嗅ぎ、ぺろぺろと舐め始めた。
少女はほんの少しだけ驚きを見せ、子犬達にされるがままになる。
「あらあら、ごめんなさいね」
だんだん近付いて、大きくなった声に少女は顔を上げた。
白髪で皺だらけ、おまけに腰が曲がっている老婆が微笑みながら少女を見つめている。