白銀の景色に、シルエット。
「賊か!」


 頼正は忌々しげに吐き捨てると、弓を引く右手に力を込めた。

 二人は手に武器を構え、ジリジリと敵との距離を図るとともに、出来る限り内裏の外で対峙出来ればと考える。

 すると一人が襲いかかり、頼正は弦を引いて矢を放った。が、僅かに遅れて外れた。

 頼正は敵と向き合ったままに体の向きを変えた。幸継と背合わせする形になり、二人敵に挟まれる。


「左衛門督様。私の背中、預けますよ」

「ああ」


 二人のやりとりの直後、賊二人が同時に二人を襲った。

 頼正は瞬時に矢を放ち、幸継は槍を向ける。頼正の放った矢は賊の胸を貫き、賊は地に倒れ臥した。

 半ば驚きながらも近寄り、生死を確認すると、息をしてはいなかった。


「何と呆気ない……」


 頼正は眉間に皺を寄せて呟く。


 何かおかしい。

 異様な雰囲気を感じ取った頼正は、背を預けた幸継の方を振り返る。


「衛門督さ」


 ──言葉はまだ途中で途切れた。

 腹部に大きな衝撃を喰らい、言葉を続ける事が出来なかったのだ。

 頼正は腹部に突き刺さる槍を定まらない視界で追った。頼正の腹部に強く槍を刺し貫いているのは紛れもない馴染みの姿。

 良き理解者であり、敬する上司であり、信頼している友の姿だった。

 頼正は震える手で槍の柄を握った。


「幸、継……っ」


 とても信じられない状況だった。

 信頼に値する者が今、自分を冷酷な顔で憎むように自分を見ていた。


「な……ぜ、」


 呼吸が荒くなり、腹の痛みで失神しそうになるのを懸命に堪える。

 幸継はそんな頼正を嘲笑うかのように槍を勢い任せに引き抜いた。


「ぐあぁぁあ!!」


 痛感してしまったその箇所が、溢れんばかりの血を流す。


「ゅき……っ!」


 頼正は精一杯の声を上げる。

 しかし幸継は口の端を吊り上げ、にたりと笑った。そこには情も何も見受けられない。

 積み上げた歳月も築き上げた友情も、皆無同然だった。
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