ぎゅっとして
「あの店には、岸本利緒の初期の作品が置いてあるんだ。ほとんどの人間はあれが岸本利緒の作品だとは気付かない。だけどお前は一目見ただけでそれに気付いた。その時のお前の表情が・・・・・なんでか忘れられなかった。すごく大切なものを見るような・・・・・。懐かしいものを見つけたような、そんな顔してた」


慧が、その時を懐かしむように遠くの方を見た。


「そん時俺も思い出したんだ。俺も、岸本利緒のデザインが好きだってことに」


「慧・・・・・」


慧はとても優しい顔をしていた。


母親のことに触れるといつも、ピンと張り詰めたような空気を纏う慧。


だけど今の慧はとても落ち着いていて・・・・・


「優衣には・・・・・その内、ちゃんと話すよ」


「・・・・・うん。待ってるね」


何でも話して欲しいと思う。


だけど、無理に聞き出したいとは思わない。ゆっくり、歩いていきたい・・・・・


 
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