ぎゅっとして
「―――今、母親が帰ってきてるんだ」


「お母さん―――」


岸本利緒。それが慧の母親。


「確か、フランスに行ってるって―――」


「ああ。この家にはほとんど戻ってこない。こないだ帰って来たのは1年前だったかな」


「そんなに―――」


「それが、急に昨日帰ってきて」


そこまで言うと、慧は言葉を止め溜め息をついた。


「―――結婚するって」


「結婚―――?」


「―――父親は俺が小さいころに死んでるから。女手一つで俺を育てるのは大変だったと思うよ。その頃はまだ駆け出しのジュエリーデザイナーだったし」


小さな声で、そう話しだす慧。


思えば、慧が自分の家族のことを話すのは、初めてだった―――。

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