ぎゅっとして
「俺と一緒に暮らしたいって―――漸く、それが叶うんだって。荷物をまとめたらすぐに発つから、ここからは一歩も出さないって」


「すぐに―――?そんな―――」


体中から、熱が引いて行くような気がした。


頭の先からつま先まで、一気に冷えて―――


あたしは体が震えだすのを、止めることができなかった―――。


「優衣」


ふと気付くと、慧が目の前にいて、あたしの顔をじっと見つめていた。


「慧、あたし―――」


「俺は、フランスへは行かないよ」


「でも―――」


「もちろん母親のことは好きだし、一緒に暮らしたいって言ってくれる気持ちは嬉しいと思ってる。でも―――母親は、どんなに時間がたっても母親には変わりない。だけど―――」

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