ぎゅっとして
「母親が有名になって、いい気になってる。生意気だって。その頃私は新しいデザインを次々に考えるのに必死で、あの子の変化に気付かなかった。学校が終わってもまっすぐに帰ってこない。制服が汚れている。普段家にいれば当然気付いたことなのに、私はそれに気づくことができなかった・・・・・。今のように家政婦も当然いなかったから、それを教えてくれる人もいなかった。教えてくれたのは―――あの子のクラスメイトからの電話だった」


「クラスメイト―――」


「ええ。名前は言わなかったけれど、男の子の声で、『慧君はいじめにあってます』って、そう言ってた。私は愕然としたわ。調べてみると、ゴミ箱にぼろぼろに破れたシャツが入っていたり、靴がドロドロになっていたり―――もちろん私にはわからないように隠してあったけれど。そして、寝ているあの子の体に無数の傷があるのを見て、ようやく気づいたのよ」


その時のことを思い浮かべたように、莉緒さんはつらそうに眼を伏せた。
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