地球最後の24時間
 うっかり刺激して自分に狂気の矛先が向けられてはたまらない。つとめて平静を装いながら、目を合わさないようにして、早足で住宅街を通り抜けてゆく。

 暴徒と暴徒同士の衝突も珍しくなく、そして犯され殺された女の死体がそこかしこに転がっていた。

(これが人間のすることか!)

 人生をまっとうしようとする人間と狂気に走る人間の違いはどこにあるのだろうか? 

 血にまみれてすでに動かない高校生くらいの少年が、何人もの暴徒にそれでもなお木刀を振り降ろされていた。その横を通り過ぎながら不安が急速に増大してゆく。

 同じく戒厳令の布かれた亜紀の住む街も同じような惨状だろう。無事を祈ることしか出来ない自分が腹立たしかった。

「待てや、おい!」

 背後からの突き刺す声にふいを突かれ、体が驚くほど硬直した。

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