地球最後の24時間
 母親の目を見つめてその涙に触れた。懐かしい、幼い頃よく撫でた頬にはしわに刻まれていた。

「行ってこい、真樹夫」

 父親が頷いて言った。

「死ぬまで生きてゆけ。母さんには俺がいる」

 父親の言葉に不覚にも涙がこみ上げる。母親もその言葉に心打たれるものがあったのか、言いかけた言葉を飲み込んで、そして小さく頷いた。

「父さん、母さん。俺、二人の子供で良かったよ」

 その言葉に二人は涙で答えた。

 家を出る前に、俺は五分ほど母親に引き留められた。どうしても渡したいものがあると言ってきかなかったのだ。

 やがて奥からアルミホイルに包まれた小さな包みを二つ持って出てきた。

「おにぎり、亜紀さんと食べなさい。せめてもの亜紀さんへの償いだから……」

 まだ温かい包みには、母親の精一杯の想いが詰まっているのだろう。その重さをずっしりと感じた。

「ありがとう。きっと、亜紀にも伝わるよ」

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