地球最後の24時間
 その一時間後の居間では、当たり障りのない会話が繰り返されていた。もちろん目の前には亜紀の父親が大きな体をふんぞり返らせて胡座をかいている。

(こ……怖えよ)

 話に聞いていたよりもさらに迫力があった。

 初老にも関わらず、その体は俺より一回り以上も大きい。恐らくかなり真面目なのだろう、浮いた話に乗ってくることもなく、慣れない環境問題の話などをしていた。

 そんな中でもこっちは必死に切り出すタイミングを計っているのだが、その勇気がどうしても湧いてこなかった。

「あの……」

 一瞬話が途切れたところだった。ここで言うしかないと背筋を伸ばした。

「……」

 その父親の無言が恐ろしい。

「あ……あき……」

 男として覚悟を決めなければならない。

「秋になるとサバがおいしいですよね」

 俺は何を言っているのだろうか? 亜紀の父親の眉間にわずかにしわが寄った。俺の脇からどっと汗がふき出している。

 その言葉に業を煮やしたのは亜紀の母親だった。

 亜紀と二人で部屋の外に控えていたようだが、いつまで経っても進展しないと思ったのか、ついに部屋へと雪崩れ込んできて食事の用意をしだした。

 そしてさりげなく二人の結婚のことを口にした。
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