地球最後の24時間
 仕事で嫌なことでもあったのかよく覚えてはいないが、俺はその日心穏やかならないまま玄関のドアを開けた。

 リビングに入ると亜紀がソファに座り俯いている。身じろぎもせず胎児のエコー写真を見つめるその姿は一種病的だった。

 その姿を毎日見せられる俺は、いたたまれない気持ちと罪悪感にさいなまれ、心は深淵に沈んでいった。

「メシは?」

 鞄を放り投げジャケットを脱ぐと、モーニングコーヒーを飲んだ後のカップすらそのままに置いてあるテーブルが目に入る。ましてや夕食など出来ているわけがなかった。

「亜紀、いい加減にしろ」

 目を真っ赤に腫らした亜紀は顔をあげた。

「もう何ヵ月経つと思ってんだ? もう忘れなきゃ駄目だろ」

「何ヵ月……まだ何ヵ月しか経ってないのよ」

「忘れるしかないんだよ、俺たちには」

「忘れられるわけないじゃない! 一生、忘れられるわけないよ」

 人は前を向いて生きていかなければならない。後ろばかりふり返っていては前に進めないのだ。

(女々しい!)

 俺はそう思って頭に血が上った。
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