地球最後の24時間
 同時刻、佐賀県基山町―― 

 ひろみは侑海を抱いていた。腕のなかで眠る我が子はどんな夢を見ているのだろう。二人のパイロットはなにも言わずその姿を眺めている。

「あのひとは無事に辿り着けましたかね?」

 ポツリとパイロットが最後に助けた真樹夫の事を口にした。

 ひろみの目に最後に映った真樹夫の姿は、悲壮感を漂わせて土煙に巻かれた夜の闇に消えていく姿だった。あの後、激戦の繰り広げられる街へ飛び込んでいったことだろう。

 正直、生きている確率は五分五分だろうと踏んでいた。

「侑海を助けてくれた人だもん、神様が見捨てないわよ。それに奇跡ってのは、全身全霊を賭けて何かを成し遂げようとする人が運命を切り開くときに、神様が授けてくれるプレゼントだと思うの。あの人ならそれを受ける権利があるもの」

 肯定するようにパイロットたちは頷くと窓の外へ目を向ける。

「ひろ姉さん、そろそろ……」

「……ん」

 窓の外が急速に明るさを増してゆく。ひろみはずっと亡くした夫との思い出を辿っていた。


(あなた……いままでありがとう……)


 腕に包まれた侑海の姿が見えなくなり、そして二人もまた光に包まれていった。




 この日地球は真っ赤な炎に覆われ、あらゆる生物がその命を絶った。


 人は生きていく事にどんな意味を求めるのだろう?

 真樹夫にとっては亜紀を幸せにすることが生きる意味だったのだろうか?

 いや、そうではなく、亜紀を幸せにするために命を燃やして生き抜いた事に意味があるのではないだろうか?






 (完)










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