地球最後の24時間
 その光景を俺は茫然と見ていた。激しい自分の息遣いがやけに獰猛に思えて嫌悪が走る。

(美沙子……?)

 はあ…はあ…

(子供……)

 はあ…はあ…

(お母さん……?)

 体内に渦巻いていた怒りは消沈し、俺はうずくまる男を後にして子供に歩み寄る。そして抱き起こした。

「なあ、訳を聞かせろよ」

 あの男は『美沙子』と言った。恐らく妻であり、この子の母親だろう。

 その現実にある愛の形に、自分の抱いてきた愛がいかに幻想的で形の無いものかを突きつけられたような気がして……自分が情けなくなった。

「すいませんでした!」

 その声に振り返ると、男は土下座して額を地にこすりつけていた。
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