地球最後の24時間
 男の目が驚きの色を見せた。そして泣きながら感謝の言葉を何度も口にする。

 男の告げた行き先は先程給油した町だった。嫌な思いをした町だが、ここからなら二十分くらいでたどり着く事が出来るだろう。

 回り道が痛いとは考えなかった。幻想の愛と現実の愛、どちらが重いかは歴然としている。そして俺は最後まで人の道を逸れたくはなかった。

(いや、今までずっと逸れてたんだ。最後くらいは……)

 それをこの親子は教えてくれたのかも知れない。

 子供をタンクとシートの間に乗せ、男をテールの上に座らせた。田舎の暴走族よろしく三人を乗せて走り出す赤いバイク。子供にヘルメットを被せると、少しの開放感と晴れやかな気分で山道を下っていった。

「わたしはずっと妻に苦労ばかりかけてきましてね、ついに心臓を患わせてしまいまして……」

 男は肩越しに話し掛けていた。
< 54 / 278 >

この作品をシェア

pagetop