地球最後の24時間
「事業を興したんですが失敗しましてね、借金まみれですよ。その返済のために妻は寝る間も惜しんで働きました。そのつけが溜まりましてね」

 一旦言葉を飲み込んだ。俺の脇に回した手が震えているのが分かる。

「最後の別れ際でした……」

 嗚咽で再び言葉を詰まらせた。

「子供が誕生日でしたが、何も買ってやることが出来なくて、それを怒った妻と口論になったんです。わたしは妻に言ったんです。『お前が病気じゃなかったら子供に誕生日プレゼントくらい買ってやれたのに』と……。わたしはなんてひどい男でしょうか!」

 その話は俺に向けて言われているような気がした。

 間もなくバイクは先ほどの町に到着した。つい何十分前かの光景が目に浮かび、今更ながらに胸くそが悪くなる。

「そう言えばあなたのお名前をうかがってませんでした。わたしは若林と言います。息子は隆です……あ、その先を左折です」
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