地球最後の24時間
 帰りの重い空気の車の中、俺は亜紀に謝り続けた。しかし、そうしたことがさらに彼女の負担を重くしていったのだろう。

 亜紀は車窓の外を流れる景色に目を据えたままポツリと言った。

「……ねえマキ、子供つくらない?」

「え、まだ駄目だって医者にも言われてるだろ」

「あたしだって子供が欲しいよ、マキの子供産みたいの!」

 こちらに向き直った亜紀の表情には切羽詰まった感がありありと浮かんでいて、それは俺の胸を締め付けた。

 周りの友人は次々と出産報告のハガキを送りつけて来ていた。そのたびにお祝いの返事を書きながらも、亜紀が涙を浮かべていたのを知っている。

 重度の喘息では発作が起きた際、呼吸困難で血中酸素濃度が下がり、胎児に重大な影響を及ぼす危険をはらんでいる。そのため妊娠する事を医師に禁止されていたのだ。

「生みたいのに……悔しいよ。マキに申し訳ないよ。あやまるのはあたしの方だもん」

「そんなことない。亜紀は悪くないって!」

「だって、あたしが体悪くなかったらこんな思いしなくて済むじゃない。皆みたいにす
ぐ子供作って幸せな家庭がつくれるんだよ。あたしじゃなくて他の女の人だったらマキだって……」
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