空の少女と海の少年
職員の姿が見えなくなる前に
海斗は春を抱き上げて
奈々と陸は急いで寮の扉を開ける
寮とは言っていたがそこはまるで
ホテルのエントランスのようだった
エントランスを抜けて
エレベーターのボタンを押すと
扉はすぐに開いた
「春?体調はどう?」
「…ん、大丈夫。さっきよりは楽になったよー…海斗、下ろして大丈夫だよ?」
「いいから。黙ってろ」
春が強がっているのは分かっていた
小刻みに震える身体は言葉よりも
正確に春の体調を伝えていた
6…7…8…
海斗達の部屋は15階
早く、早くと心で急かしながら
腕の中で苦しそうにしている春を見た
「なんで気づかなかったんだ…」
「お前だけじゃないだろ。俺も奈々も気づけなかったんだから」
「今更悔やんでもしょうがないわ。部屋で横になれば楽になるはずよ」
苛立ちが隠せない
エレベーターの中の空気は悪く
それぞれ無言のまま数字を見つめた
リン、と鈴がなり15階に着き
扉が開くとすぐに飛びたした
部屋はすぐに見つかって
鍵を開けようとしていると
足元から幼い声が聞こえた
「ありゃ~、"気"にあてられちゃってるね~」
お姉ちゃん大丈夫?
そう言ってショートカットの
黒髪を揺らして首を傾げたのは
140cmほどの女の子だった
「あなたは?」
「ちょっといい?」
奈々の問いには答えずに
女の子は海斗の肩に飛び乗り
春の額に手のひらをかざした
その瞳の色は桃色に変化していて
陸はその女の子を咄嗟に掴んだ、が
「ストップ~。大丈夫だよ、蘭が治してくれるんだからおとなしくしてて」
「なっ…!…え?」
陸の手を止めたのは一本の蔓
振り返った陸の視線の先にいたのは
女の子と瓜二つの男の子だった