空の少女と海の少年
◆第一章
◇夜の出来事
──その日の夜は満月だった
すっかり静まった住宅街
その中心にある公園で
少年は月を見ていた
そよ風に揺れる黒茶の髪と
端正な顔立ちは人を惹き付けるが
何よりも目立つのはその瞳
深い海色の瞳は
どこか冷たく、鋭い
少年は暫く月を見ていたが
何かを感じて振り返る
風が止んだ後
少年の前にそれは現れた
『ピギャャャャャア!』
甲高く耳障りな雄叫びを上げたそれは
巨大な猿のような姿をしているが
その背中には本来は
無い筈の羽根が生えている
人間界には存在しない生物
人々はそれを¨魔物¨と呼んだ
振り出された巨大な拳を避け
少年は魔物に向けて右手を突き出し
不機嫌そうな低い声で呟いた
「失せろ、《氷雪》」
空気が震えて
魔物が一瞬で凍りついた
少年がそのまま拳を握ると
氷は粉々に飛び散った
月明かりを反射しながら
キラキラと光る氷の粒は
さっきまで暴れていた魔物
少年は氷の粒を一瞥すると
静かに公園を去っていった
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