空の少女と海の少年
◇能力審査
ーー昨日は色々なことがあった
薄いピンクのカーテンを開くと
まだ薄暗い空が目の前に広がり
少しずつ顔を出す太陽が部屋を照らす
ひとりで寝るには大きい
ダブルサイズのベッド脇の時計は
午前5時を示していた
あの後はみんなそれぞれ過ごした
夜ご飯は奈々が作ってくれた
春の好きなオムライスだった
大きなお風呂にゆっくり入って
ふかふかのベッドで眠った
奈々も陸も海斗も何も言わなかった
何も話さなかったって意味じゃない
春の事について何も言わなかったってこと
みんな春の事を考えてくれてる
今までみたいに守ってくれようとしてる
だけどそれでいいのかな?
能力者として過ごした方が
みんなにとってはいいに決まってる
春の存在が足枷になっているのだろう
窓ガラスにそっと右手を添えて
そのまま額をピタリと当てた
冷んやりとしたガラスの温度が
考えすぎた頭には心地良かった
「そんなのは…嫌だ」
いつまでも甘える訳にはいかない
隣にいてくれるみんなが
本当は届かないほど前にいるのは
ずっと、分かっていた
「追いつくんだ」
足枷になりたくなりなら
走ればいい。ガムシャラに走ればいい
顔を上げて窓ガラスに映る
澄んだ青い瞳を見つめた
その瞳に宿る意志は強く
すっかり顔を出した太陽の光のように
キラキラと輝きを増していた