スタッカート






本当に、一瞬だった。
今まであんなにも長く感じた、人前でピアノを弾くという事。

それがまるで風のように過ぎ去ってしまい、その変化に自分でも戸惑いを隠せず、曲を弾き終わり、ステージから幕の中に入っても、まだ終わった気がしなかった。


夢でも見ているかのような、感覚。
心臓が、激しく胸を打ちつけている。



発表会が終わってもドレスも着替えず、呆然と控え室で立ち尽くしていると、背後から藤森先生の声が聞こえた。

「東子ちゃん、入り口にお客さん来てるわよ」

先生の顔が何故かニヤニヤしている。


「お客さん…?」

首をかしげ、そう聞くと、藤森先生は左の掌をパタパタと上下に振り、更に目を細めた。


「そうよ〜なんで教えてくれなかったの!?彼氏!」



か、かれし!?



私はドアを勢いよく開けて控え室を飛び出し、小さな子供たちで溢れかえっている廊下を全速力で走りぬけ、入り口へと走った。


まさか。




……まさか。
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