スタッカート




家族連れで溢れているロビーで、学ランでギターケースを担いでいるその姿は、正直浮いていて―私は、直ぐに彼を見つけることができた。



―…トキ。



壁にもたれかかり目を伏せていたトキは、視線を感じたのか目線を上げ、私と目が合うと微かに目を見開き、体を起こしてゆっくりとした足取りでこちらに向かってきた。


鼓動が、急に速くなった。


「…なんで、ここに…」

搾り出した声に、トキは薄く笑って答える。

「―金沢ヒナが、お前が初めて軽音の部室に来た翌日に、渡してきた」

制服のポケットから、折りたたまれた紙を差し出す。

それは、この発表会のチケットで。


「何がなんでも行け、ってな」

可笑しそうに目を細めて、トキは笑った。

トキの、そんな無邪気な笑顔を見るのは初めてで、心がぽっと温かくなった。

トキは一瞬間を置き、ゆっくりと口を開いた。



「……弾けるじゃねえかよ、ちゃんと」







.
< 103 / 404 >

この作品をシェア

pagetop