スタッカート
家族連れで溢れているロビーで、学ランでギターケースを担いでいるその姿は、正直浮いていて―私は、直ぐに彼を見つけることができた。
―…トキ。
壁にもたれかかり目を伏せていたトキは、視線を感じたのか目線を上げ、私と目が合うと微かに目を見開き、体を起こしてゆっくりとした足取りでこちらに向かってきた。
鼓動が、急に速くなった。
「…なんで、ここに…」
搾り出した声に、トキは薄く笑って答える。
「―金沢ヒナが、お前が初めて軽音の部室に来た翌日に、渡してきた」
制服のポケットから、折りたたまれた紙を差し出す。
それは、この発表会のチケットで。
「何がなんでも行け、ってな」
可笑しそうに目を細めて、トキは笑った。
トキの、そんな無邪気な笑顔を見るのは初めてで、心がぽっと温かくなった。
トキは一瞬間を置き、ゆっくりと口を開いた。
「……弾けるじゃねえかよ、ちゃんと」
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