スタッカート




その言葉が、何よりも嬉しくて。
私の瞳に、温かいものが溢れた。

トキはそんな私を前に、困り果てた顔をすると、涙で濡れた頬に手を伸ばしてくる。
それでも、触れる寸前で、躊躇うようにそのまま動きを止めた。


「おい…いや泣くな。ほんとわけわかんねえ。泣かせるために来たわけじゃねえんだよ俺は。」


少しの間唸ると、そう言って、頭をガシガシとかく。


嬉しさと、泣き顔を見られている恥ずかしさ。
でもわたしはしっかりと、目の前に立つトキの顔を見上げて、その言葉の続きを待った。


「…謝る気はねえが撤回する。今のお前のピアノの音は死んでねえ。

あんなに楽しそうに弾いてんだ。そんな訳がねえ。」




こんなに嬉しいことを、私がずっと求めていた言葉を、こうもはっきりと言ってくれる。



嗚咽が漏れた。


…本当に、格好悪い姿だろうなと、自分でも思う。





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