スタッカート
何でいつも、エロだとか変態だとか、そういうことしか言ってこないんだろうか。
そんなに私は欲求不満に見えるの?
ていうかそんな態度したことある?
内心苛々しつつ上目遣いで睨むと、フン、と軽く鼻で笑われた。
むむむ…!
何か悔しい、猛烈に。
だけど何故か、トキの顔をみると何も言い返せなくなる。
私は深くため息をついて、視線を足元に落とした。
単なる苛つきなのか、悔しさなのか、わけのわからない感情が、胸のなかにぐるぐる回る。
しかしそれにまじって、懐かしい景色が浮かんでは消えた。
古びたピアノ。
壁にかけられたギター。
……どうして、いま。
そう心の中で首を傾げてみたけれど、すぐに答えは出た。
…トキだ。
彼の存在が、あの場所を思い出させるんだ。
そしてどうしようもなく、恋しくさせる。
思い出せば思い出すだけ胸がきゅうっと締め付けられて切なくなり、思わず顔を歪める。
そうしているうちにひとつの思いが、胸の中にじわじわと広がった。
また、あの場所に行きたい。
きゅっと唇を結んで、隣に立つトキを見る。
ぼんやりと空を眺める横顔が、時折車のライトに照らされている。
そんなどこか憂いのある横顔を数秒見つめた後、トキはやっとこちらの視線に気付き、眉を寄せて訝しげに視線をよこしてきた。
なんだよ、と言うようにさらに眉間に皺が寄り、慌てて口を開く。
考えている余裕は、無かった。
「また、軽音部の部室に行ってもいい?」
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