スタッカート


ヒナが眉を寄せて、先生を上目遣いに見上げる。
大きな瞳が、戸惑いを隠せないように不安げに揺れていた。

「お金のことが、心配なの?」

いつもの優しい声色でそう聞かれ、ヒナは唇を噛んで俯いた。

藤森先生はそんなヒナを暫く見つめた後、再び口を開いた。

「―こういう条件なら、どうかしら」


ゆっくりと持ち上げた掌を、自分の鎖骨あたりに当てて続ける。


「ピアノ教室のお手伝いをするの。そうね、仕事は雑用になるけれど…。そのお手伝いをする代わりに、コレまでどおりピアノを教える」

そこまで言って、

どうかしら?とヒナの顔を覗きこんだ。

ヒナはふるふると首を振ると、搾り出すように言った。


「……ダメです…そんなこと」

「あのね、ヒナちゃん」


先生の、細くて白い指が、ヒナの頭を優しく撫でる。



「これはね、私の我儘なのよ」
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