スタッカート
8
「おい、伊上」
朝のHRが終わり、始業まで眠るつもりで机に突っ伏していると、背後から、吹奏楽部部長の佐伯琢磨の声が聞こえ、私は顔を伏せたまま心の中で小さくため息をついた。
体を起こして振り返ると、相変わらず不機嫌そうな佐伯。
私の目の高さまでイルカのキーホルダーのついた鍵を持ってくると、はやく取れ、とでも言いたげな顔でこちらを見下ろしてきた。
ありがとう、と呟くように言って鍵を受け取る。
いつもの佐伯なら、ここで舌打ちでもして席に戻る。
けれど、この日は違った。
いつまでも、私の前に立ったまま動こうとしない。
眉間に深い皺を刻んだまま、私の机に両手をついて、何かを探るように見つめてくる。
「…なに?」
そう言って首を傾げ、眉を寄せて見つめ返すと、重くため息を吐かれた。
佐伯は少しだけ俯くと、きょろきょろとチョコレート色の目を泳がせて、たどたどしく言葉を紡いだ。
「…この前、お前のところの、ピアノ教室の発表会、見に行った」
驚いて目を見開くと、佐伯は顔を真っ赤にして声を張り上げた。
「ち、違うからな!別にお前のピアノをききに行ったんじゃない!」
「……………。
…兄弟が、同じピアノ教室なの?」
そうきくと、ぶんぶんと勢いよく首を縦に振って。
少しの間押し黙ると、口を開いた。
「……それで、ついでに、お前のピアノも聞いたんだ」