スタッカート
数学教師の眠たくなりそうな声を聞きながら、スカートのポケットに入れた音楽室の鍵を取り出す。
軽い音を立てて揺れるイルカのキーホルダーの、つぶらな瞳と目が合った。
―きちんと、ピアノと向き合いたい。
そう思った私は、発表会を終えても、こうやって音楽室の鍵を借りて、休み時間にピアノを弾いている。
発表会のあのピアノは、まるで魔法がかかったようだったけれども、次もああやってできるのかというとそうでは無い気がするのだ。
…何年もの、空っぽの時間が、私には在る。
その時間で空いたぶんを、少しずつ埋めていくことが、今の私には必要で。
「きっと変われる」と言ったトキ。
その言葉を信じて、私の周りの、たくさんの温かいひとたちを信じて
少しずつでも前進することが、大切なのだ。