スタッカート
佐伯琢磨といい、清水さんといい。
何だか今日は、ピアノが褒められる日みたい。


嬉しさに、思わず口元が緩んだ。


「…なに、ニヤニヤしてんだ」

その声に視線を向けると、気味悪そうに、眉間に皺をよせてこちらを見下ろしてくる佐伯琢磨と目が合った。

慌てて、口をきゅっと閉める。

「鍵」

そう言われて、目の前に出された大きな掌に、ポケットから探り出した鍵を乗せた。

佐伯は訝しげに私の顔を眺めると、そのまま少しの間を置き、国語教師が教室に入って来たことに気付き、自分の席に戻っていった。

その姿を見送り、ほうっと息を吐く。


なんだか…トキと会ってから、いいこと続きだ。

…今度、なにかお返ししなきゃ


私は、心がほっこりと温かくなるのを感じながら、白く角張った字で埋められていく黒板に視線を写しノートをひらき、授業に意識を集中させた。



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