スタッカート
清水さんは、扉一枚を隔てた向こう側で、言葉を続けた。
他の女の子の声も、それを追って続く。

「昼休み、ピアノ弾いてるんだって」

「まじ?じゃああれやっぱり伊上さんなんだ?」

「毎日聞こえるよね。ずっと前にコンクールで賞取った事もあるらしいし、やっぱり上手いはずだねえ」

「…うん。凄いよねえ。…でも、なんかさあ」

そこで、一旦言葉を切った清水さんが、喉の奥でくつくつと笑うのが聞こえた。


「見せ付けかよってねぇ」






体が

石のように
固まった。

その声に、誰かの笑いが続く。

「見せ付けってか……まあいいんじゃない?勉強だけじゃないってアピールだよ」

「いや、ガリガリ勉強しなくったって私は優秀者ですからって言いたいんじゃない?」

「あはは。ありえるー。なんか伊上さんっていっつも、笑ってても引き攣ってるしさあ、実はそんな事考えてたりしてー」

背筋を、冷たいものが走った。
呆然と立ち尽くしたままでいると、清水さんが声をあげた。


「あ、次、移動教室だよね?」

その言葉に、周りの女の子も、あっと声をあげて。

誰かが呟くように言った、早く行かなきゃという言葉に、一瞬騒がしくなり、そしてそれも徐々に遠ざかり

女子トイレは、再び静寂に包まれた。







…個室の中

立ち尽くす、私を残して。
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