スタッカート
チャイムが、鳴った。
ガチガチに固まってしまった手を無理矢理動かして鍵を開け、女子トイレを出た。
教室に戻ると、そこにはもう、誰ひとりとして姿はなく。
いつも一瞬に移動していた友達も、先に行ってしまったようだった。
どっしりと、見えない何かがからっぽの心にのしかかるのを感じながら、机の中から次の授業の教材を取り出して、静かな廊下を歩いた。
生物室のドアを開けて、中に入る。
直ぐに、生物の岩村先生の声が俯いた顔に当たった。
「なんだ伊上。お前が遅刻なんて珍しいな」
私はその言葉にすみません、と曖昧に笑って、自分の席に向かった。
途中、前列の席に座る清水さんと、目が合った。
清水さんは
口元に、柔らかな笑みを浮かべて
こちらを、真っ直ぐに見つめていた。