スタッカート
「だいたいなあ、ハチはそこらへんの弁えってもんを知らな過ぎるんだよ。どこにお前、本人を目の前にして人のものに手を出す馬鹿が居るんだよ」
眉間に皺を寄せた恵さんが、ぐすぐすと目を潤ませて鼻をすするハチさんを一喝する。
ハチさんは、トキに殴られた後頭部が相当痛むのか、両手をそこにあてたまま動かない。
…けれど。
「…人のものって、何ですか…」
聞き捨てなら無い台詞に反応した私に、恵さんはけらけらと笑い、相変わらず黒いオーラを纏ったトキを小突いた。
トキは更に険しい顔になると、無言のまま恵さんのほうに視線を向ける。
その目と目が合うと、恵さんは目を見開いて、おや、と声をあげた。
「…まさかお前ら、まだなの?」
きょとん、とした顔で言われたその言葉に、トキのオーラが黒さを増す。
背筋を寒気が襲う。
…降りてきた、長い沈黙。
「…ぶふッ…あははははは!!」
恵さんは堪えられないように突然噴出して、トキの肩をバシバシと叩き始めた。
訳が分からず目を白黒させて、トキと恵さんを交互に見る。
…この場で、私だけがを状況を読めていないようだった。
恵さんは涙目になりながら、尚もトキの肩をバシバシと叩いて、口を開いた。
「散々待ったスタジオ入りの日にいきなり抜けて、発表会見に行くまでしたのに!?」
それを聞いて。
―…固まった。