スタッカート
「ああ、やってるねえ」
のんびりとした口調で、ハチさんが言う。
「な、なんですか?この音」
耳を押さえながらそうきくと、ハチさんは穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。
「さっきの、いかつい顔した三人のバンドだよ
今頃、部室内で首振って飛んでんじゃないかなあ」
そう言って、はははと笑い、切ったチケットを色分けして重ねる。
私も、あわててそれに続いた。
「あのバンドは特に賑やかだからさ。あいつらが練習で部室使うときは、みんな外に出てっちゃうんだよ。自分の音がきこえないってね」
「じゃあ、トキも恵さんも、みんな、別の場所で練習してるんですか?」
「そうそう。あの三人が部室を使えるのは6時までの一時間だから、それまでは、それぞれ自分の気に入っている場所でやっているはずだよ。…ああ、そういえば、今日は海陽も来るって言ってたなあ」
「…カイヨウ?」
初めてきくその名前に首を傾げると、ハチさんは何かに気付いたようにああ、と声をあげて。
「この前、東子ちゃん、俺たちのいない時に部室に来たんだよね?」
頷くと、ハチさんもまたうんと頷いて。
「その時、銀のピアスの男の子がいなかった?」
……銀のピアス?
暫く考え込むと、頭の中で足りなかったピースがはまるように記憶が繋がる。
ああ、と声をあげる私に、ハチさんは笑った。
「それが、海陽だよ。」