スタッカート
「東子ちゃん!」
照明はまだ落とされておらず、明るいライブハウス。
どこを見ても人、人、人。
気合の入った服装で、友達と談笑している女の子、男の子。様々な匂いが混ざり合って鼻をつつく。
その人口密度の高さに思わず顔を顰めたとき、背後から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、少し離れたところに満面の笑みを浮かべるハチさんが居た。
微笑んで会釈すると、ハチさんは人混みの中を掻き分け目を輝かせて駆け寄ってきた。
「よかった!来てくれたんだ」
「はい。チケット、ありがとうございました」
「いやそんな!お礼を言うのはこっちだから。今日のライブは相当盛り上がる筈だからさ、東子ちゃんにもきっと、楽しんでもらえるだろうって――あれ?今日は一人できたの?」
きょとん、と首を傾げて私の顔を覗き込む。
私は眉を下げて、小さく頷いて笑って返した。
実は、ヒナがハチさんから預かったチケットは一枚ではなかった。誰か友達も連れて、という意味なのだろう、差し出されたそれは二枚だった。
でも
何となく、他の人を誘ってくるのに気が引けた私は、結局一人で来ることにした。
「すみません、せっかく頂いたのに……」
頭を下げると、
「いやいや気にしないで!東子ちゃんがきてくれただけで、もう充分だよ」
とハチさんは笑った。