スタッカート


ベースの低音が耳に届く。
ステージのある後方を振り返ったハチさんは、表情は変えず満面の笑みのままこちらに向き直って言った。

「そろそろ、始まるよ。」

ハチさんの声や表情からは、本当に純粋に、音楽が、バンドが好きで好きで堪らないというのが伝わってきて。


思わず、私の口元も緩んだ。


前には行かないの?ときかれたけれど、それにはやんわりと首を横に振った。

一瞬、眉を下げて残念そうな表情になったハチさんだってけれど、直ぐにまた笑顔に戻って、じゃあ楽しんでね、と言い残して人混みの中に消えていった。


それを目で追ったあと、まわりを見渡す。


……どこで見よう。


ソファや椅子に座ろうかと思ったけれど、何処も一杯だった為、そろそろと奥に向かった。

スポットライトに照らされるステージを、そこからは一番離れた場所の壁にもたれながらぼんやりと眺める。





目を伏せて、始まりを告げる音が鳴るのを待った。



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