スタッカート
純粋に、この人は音楽が好きなんだと思った。
そんなトキを羨ましく思ったのは、自分自身でも認めたくはなかったけれど。


私は少し胸に痛みを感じつつもすぐに無理矢理笑顔を作って、荷物を抱えソファから立ち上がった。

「それじゃあ、もう大丈夫だから…帰ります。色々と、ありがとう」

「…雨止んでねえぞ」

予想していた通り、玄関へと歩き出した私の背中にトキの声があたる。

「タクシー、呼ぶから」




長い沈黙






振り返った先には困ったように微かに笑うトキの顔。

玄関で突っ立っている私を上から下まで見た後



「そのスウェット姿でもいいならな」



と、彼もまた立ち上がった。
< 23 / 404 >

この作品をシェア

pagetop