スタッカート
まるでそこだけ時間が止まったように、私たちは動きを止めた。
下を向いていたトキの視線がゆっくりと動いて、私の隣に立つ佐伯に移る。
それをスローモーションのように見ていた私は、何故か鼓動が速くなるのを感じていた。
トキと、佐伯。
二つの視線が絡み合う。
トキは怪訝そうな表情で暫くの間佐伯の顔をまじまじと見つめていたけれど、次の瞬間何かに気付いたように大きく目を見開いて、一歩、後ろに後ずさった。
その表情は、
まるで、何かに怯えているようで。
そして先ほどとは違って鋭く冷えた佐伯の声が、耳に届いた。
「久し振り、だな。……十年か。……知らないオヤジが頭下げてきて、お前があそこから居なくなって。」
冷たい風が、頬を刺す。
「俺も、…妹も、お前の事を忘れることは無かった。妹は今でも、お前のことを友達なんて言って、いつまでもいつまでも……信じてる。
お前、
……今度は、伊上を傷つける気か」
そう言った佐伯は、眉間にぎゅっと深く皺を刻むと、呆然とする私の手首を掴んできて。
「……!?」
驚いて声をあげる私に構うことなく、踵を返して、公園の外へと走り出した。
「何…っどうしたの!?佐伯…!!」
振り返ると、表情を強張らせて立ち尽くすトキの、揺れる瞳と目が合った。
胸が、悲鳴を上げる。
手首をがっちりと掴むその手を振りほどこうと目一杯動かすけれど、佐伯は更に力をこめてきて。
その痛さに、顔が歪んだ。
――そして
気付けばもう、背後には
何処までも深い闇しか無かった。