スタッカート
薄暗い廊下を、伏目がちのまま歩く。
雨粒が地を叩く音が耳に響いた。
一人でいると見えない何かに押しつぶされそうになる。
その何かが、私を責める。
踏み込もうとする自分と、その勇気が出ない自分。
どちらにもいけない、中途半端な自分。
重く詰まった息を吐き出して、一階に続く階段を降りた。
外廊下に出ると、コンクリートの床はびっしょりと雨に濡れていて、制服のスカートと足、ローファーを、横から入り込んできた雨粒が容赦なく叩き、私は小走りで校門へと向かった。
屋根が途切れるそこで、今朝家から持ってきた赤い傘を開く。
一歩踏み出すと、ぱしゃりと水がはねた。
水溜りに目を向けながら、ゆっくりと歩く。
足を前に出すたびにそこから波紋が広がった。
前に目を向けると、激しさを増した雨の所為で、あたりは真っ白に染まっていた。
……しかし、そこで
校門の前、ひとり、誰かが立っているのを見つけた。
自然と歩調が早まるのを自覚しつつ、水を跳ね上がらせてそこに向かう。
大きな藍色の傘をさしたその人は、ばしゃばしゃという水が跳ね上がる音の所為なのか、気配に気付いたのか、少しばかり傘を後ろに下げて、真正面から私の顔を見た。
「よかった。もう帰っちゃったかと思ったよ」
目が合うと、そう言って
……ハチさんは、ふわりと笑った。