スタッカート
開け放した窓から雨が勢い良く入り込んで、激しく床を叩きつけていた。
ばさばさとカーテンが揺れている。
ハチさんは無言でそこまで歩いていくと、しずかに窓を閉めてため息をつき、グランドピアノの上に視線を向けた。
私も、その視線のあとをなぞる。
制服の、白いシャツの背中。
曲げられた長い足と、綺麗な黒髪。
こちらには背を向けて寝ている状態なので、その表情はわからなかった。
「……トキ、」
呼びかけるハチさんの声に、彼は応えない。
「いつまでそうしてるつもりだ」
「……」
「東子ちゃんから、電話着てんだろ」
「……」
「話せばいいだろう?東子ちゃんなら、」
「――それならもう……琢磨から全部、きいてるだろ」
トキは私がここにいることに気付いていないのか、ぼそぼそとそう言って。
そっと横に立っているハチさんを見ると、ハチさんは唇の前に人差し指を立てて、私と目を合わせた。
小さく頷いてきゅっと唇を結ぶ。
ハチさんはゆっくりと視線をトキに戻して――急にぐるっと体の向きを変えたかと思うと、ドアのほうに向かって足音を立てずに歩き出した。
目を見開いてその背中を見る。
ドアに手をかけたハチさんはこちらを振り返って――
顔の前で手を合わせて、困ったように笑った。
その姿がするりとドアの向こう側へと消え、私は思わず、あっと小さく声をあげてしまった。
しかし
その声と同時に、地面を揺るがすような大きな雷が鳴って、その声はすっかりかき消されてしまった。